養成カリキュラム
心臓リハビリテーション指導士養成カリキュラム
1.心臓リハビリテーションに関連する基礎的項目
A.機能解剖学
【総括目標1】
心臓リハビリテーションに関連する人体の機能解剖学と生体力学の基本的知識を有すること。
【個別目標1】
- 循環器、呼吸器の解剖および機能の正常および異常に関する基本的知識を有すること。
- 骨、関節、筋肉の解剖および機能に関する基本的知識を有し、筋力低下あるいは神経学的・整形外科的異常が、いかに身体機能に影響を与えるかを述べることができること。
- 上腕動脈、橈骨動脈の位置を示し、脈拍および血圧を正しく測定できること。
- 末梢動脈脈拍を触知する解剖学的位置を示せること。
B.運動生理学
【総括目標2】
運動生理学の基本的知識を有し、臨床的な応用を理解していること。
【個別目標2】
- 正常安静時と運動強度の増加に伴う運動時の下記項目の変化について、値をあげ、図にすることができること(そしてそれらがいかに冠動脈疾患、あるいは慢性閉塞性肺疾患で異なるのかを示せること)。 心拍数、一回心拍出量、心拍出量、二重積、動静脈酸素較差、酸素消費量、収縮期および拡張期血圧、分時換気量、一回換気量、呼吸数、体温。
- 身体活動のエネルギー消費量およびMETsの概念を理解し、各種身体活動や運動負荷試験のMETs値を述べることができる。
- 有酸素性代謝と無酸素性代謝の相違と、心臓リハビリテーション参加者におけるそれらの意義について述べることができる。
- 運動機能の低い人、あるいは心血管系疾患を有する患者に対して等尺性運動がもたらしうる障害を述べることができること。
- 臥床安静の生理学的変化、即ちデコンディショニングについて述べ、これらの変化に対処するために用いられる適切な身体活動性を述べることができること。
- 上腕運動と下肢運動の血行力学応答の特徴、および静的運動と動的運動の血行力学応答の特徴を比較して説明できること。
- 心筋酸素消費量の決定因子とそれらに対する運動トレーニングの効果について述べることができること。
- 加齢による生理学的変化について理解していること。特に、高齢者における運動時の生理学的反応の特徴を理解していること。
C.心臓電気生理学(心電図)
【総括目標3】
心臓電気生理学に関する基本的知識を有し、健康人および冠動脈疾患、肺疾患、代謝性疾患の患者における安静時および運動中の重要な心電図パターンを理解していること。
【個別目標3】
- 安静および運動負荷心電図の四肢および胸部誘導部位を示せること。
- 正常心電図に関する基本的知識を有すること(P波, QRS波, T波, QRS軸, RR間隔, PQ間隔, QT間隔, ST区間)。
- 心筋虚血および心筋梗塞に伴う心電図変化を説明できること(ST上昇および下降、異常Q波、T波の異常、各虚血領域に特徴的なパターン)。
- 過呼吸、電解質異常、薬剤治療に起因する定型的な心電図変化を確認できること。
- 冠動脈疾患以外の疾患(高血圧性心疾患、心腔拡大、心膜炎、肺疾患、代謝性疾患)に伴って生じる安静時心電図の変化を認識できること。
- 虚血性心電図変化、および各種不整脈の原因と考えられるものを説明し、安静時、運動中、回復期におけるそれらの出現の意義を説明できること。
- 安静時、運動中および回復期の心電図にみられる危険な不整脈、伝導異常を明らかにできること(脚ブロック、房室ブロック、洞性徐脈および頻脈、洞停止、上室性期外収縮および上室性頻拍、心房細動、心室性期外収縮、心室頻拍、心室細動)。また、このような不整脈あるいは伝導異常の例で、どのような処置が引き続いて行われるかを説明できること。
D. 心理学、行動科学
【総括目標4】
心臓リハビリテーションに関連する行動心理学、社会心理学、教育技術に関する基本的知識を有すること。
【個別目標4】
- 心臓リハビリテーション参加者(急性心筋梗塞症、狭心症、心臓手術後患者など)およびその家族が直面する精神的、心理的諸問題(不安、抑うつ、恐怖、失望、躊躇など)に関する基本的知識を有すること。
- 運動プログラムへの参加、継続、復帰などを励ますときの動機づけや、行動変化を引き起こすための効果的なカウンセリング技術について述べることができること。
- 適切な身体状況を得るための行動変容療法について述べることができること。
- 不安や怒り、抑うつを取り除き、リラックスさせてストレスを処理する方法について述べることができること。
- 疾患自体により、または社会復帰(退院、復職など)に伴って引き起こされる不適応症状とその対応策について述べることができること。また適切な心理学的アセスメント、心理検査ができ、適宜、専門家へ紹介することができること。
- 安全精神衛生管理の一般原則および、症状・疾病を引き起こす要因や対策、必要と思われる健康教育について述べることができること。
2.病態生理および診断治療学
A.病態生理
【総括目標5】
心臓リハビリテーションに関連する疾患の病態生理、および各病態における安静時および運動中の心肺系および代謝系の応答を理解する。
【個別目標5】
- 安静時および運動中における心機能異常、虚血時の心肺系、代謝性応答について述べることができること。
- 安静時および運動中における、肺疾患に伴うあるいはそれに由来する心肺系および代謝性応答について述べることができること。
- 末梢血管疾患の徴候と症状、ならびに各種の運動様式がそれに及ぼす影響を述べることができること。
- 糖尿病患者の安静時および運動中の代謝性応答ならびに生じうる合併症(低血糖など)について述べることができること。
- 肥満、高脂血症、高血圧の病態生理およびこれらに対する運動の影響を述べることができること。
- 粥状硬化症の病因および冠危険因子について理解していること。
- 狭心症(血管攣縮性狭心症を含む)の症状および病態生理を述べることができること。
- 急性心筋梗塞症の病因、症状、病態生理について理解していること。
- 急性心筋梗塞後に生じうる合併症(心破裂、不整脈、心不全、狭心症など)を述べることができること。
- 心筋梗塞後患者の予後規定因子の重症度を評価し、高い危険度をもつ患者に対して用いられる対策およびその効果について理解していること。
- 心不全(左心不全、右心不全)の病態生理および心不全徴候について述べることができること。
- 心臓術後患者の運動生理学的特徴、及び術後合併症について理解していること。
- 心臓リハビリテーション参加者が服用する種々の薬剤(抗狭心症薬[硝酸薬、β-遮断薬、カルシウム拮抗薬など]、抗不整脈薬、抗凝固薬、抗血小板薬、高脂血症薬、降圧薬[利尿薬、血管拡張薬など]、ジギタリス薬、気管支拡張薬、抗不安薬、抗うつ薬など)の作用、および安静時および運動中の心電図変化を含む生理学的応答、症候に及ぼす影響を述べることができること。
B.診断治療学
【総括目標6】
心臓リハビリテーションに関連する疾患の医学的診断法および治療法を理解する。
【個別目標6】
- 虚血性変化の測定に用いられる診断法を述べることができること。
- 冠動脈造影、心臓核医学検査(タリウム心筋シンチグラム、心RIアンギオグラフィー等)、呼吸機能、心臓エコー、CT, MRIの目的と有用性を述べることができること。
- 急性心筋梗塞症に対する血栓溶解療法について理解していること。
- 経皮的冠動脈形成術(PTCA、ステント、ロータブレーター)について再狭窄、合併症を含めて理解していること。
- 冠動脈バイパス術の方法、合併症について理解していること。
- 重症心不全治療としての 大動脈内バルーンポンプ法(IABP)、経皮的心肺補助装置(PCPS)、補助人工心臓について理解していること。
- 弁膜疾患、先天性心疾患の基本的な手術方法、合併症について理解していること。
3.健康評価と健康適性試験
【総括目標7】
リハビリテーションプログラムにおける運動負荷試験を完全に説明できなければならない。
【個別目標7】
- 心電計、電動式トレッドミル、自転車エルゴメーター(機械制動式)、肺気量計、呼気ガス分析機の較正技術について述べることができること。
- 運動負荷試験および運動トレーニング中の心電図モニターの適応と方法を述べることができること。
- 運動負荷試験の適応および禁忌について理解し、述べることができること。
- 最大負荷試験と最大下負荷試験の違いについて説明できること。
- 6分間歩行試験について理解し、施行できること。
- 運動処方および活動度の決定において重要な心電図異常の意味を認識できること。
- 心筋梗塞後患者の予後評価における運動負荷心電図、血行力学反応、タリウム心筋シンチグラム、RI心室造影、ホルター心電図の意義を理解できること。
- 呼気ガス分析データの解釈ができ、疾患における意義が理解できること。
- 運動の適当な設定、監視のレベル、モニターのレベルを決定するのに、この情報を用いることができること。
- 心血管系疾患発症後の患者に、身体的コンディショニング、仕事への復帰、日常生活の中のある特定の活動(例えば運転、階段を上る、性行動)を行うことに関し、運動負荷試験の結果と臨床状態を基礎として、客観的に指導することができること。
4.心臓リハビリテーション
A.心臓リハビリテーション総論
【総括目標8】
心臓リハビリテーションの定義、目的、構成要素について理解していること。
【個別目標8】
- 心臓リハビリテーションの定義、目的(1:身体的および精神的デコンディショニングの是正と早期の社会復帰、2:2次予防、3:QOLの向上)について理解していること。
- 心臓リハビリテーションの構成要素(1:運動療法および運動処方、2:冠危険因子の評価と是正、3:生活指導・復職指導・カウンセリング)について理解していること。
- 心臓リハビリテーションチームの構成について理解していること。
B.二次予防、教育
【総括目標9】
冠動脈疾患の二次予防の意義および対策、心臓リハビリテーション参加者に対する教育・カウンセリングの重要性およびその方法について理解していること。
【個別目標9】
- 冠危険因子を列挙し、規則的かつ適度な運動習慣がこれらに与える影響について述べることができること。
- 血清脂質(総コレステロール、LDLコレステロール、HDLコレステロール)の正常値および推奨値に関する知識を有すること。
- 肥満の定義、標準体重の算出法、体脂肪率に関する知識を有すること。
- 血糖値の正常値および糖尿病におけるコントロール目標値に関する知識を有すること。
- 正常血圧および高血圧の診断基準に関する知識を有すること。
- 基本的な4種類の食物群を説明し、各々を含む食物の例を列挙できること。
- 高脂血症、高血圧症、糖尿病、肥満に対する食事療法について説明できること。
- 喫煙の有害性を説明でき、禁煙の方法について指導できること。
- 過度の水分制限や発汗による脱水の危険性を理解し、運動後の適切な水分補給について説明できること。また水分の摂取過剰による心不全の危険性についても説明できること。
- ストレスへの対処法について理解し、指導できること。
- 嗜好品(アルコール、コーヒーなど)の影響について理解していること。
C.運動プログラム
【総括目標10】
冠動脈疾患の危険因子を有する人、および、すでに心血管系、呼吸器系、代謝性あるいは整形外科的異常を有する人に対する運動の意義を理解し、個々の人の運動処方を実施できること。
【個別目標10】
- 運動プログラムにおける各種の患者集団に対して、勧められる監視レベルとモニターのレベルを論じられること。
- 医学的情報と運動負荷試験の成績を基にして、運動の種類、運動強度、持続時間、頻度、進行、その他の注意事項に関して、適切な運動処方を実施することができること。
- 下記の状態の患者の健康状態により、患者の運動プログラム(運動の種類、強度、持続時間、頻度、進行)を修正できること。冠動脈バイパス術後、心筋梗塞症、狭心症、PTCA後、心移植、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、糖尿病、肥満、高血圧、高脂血症、腎疾患、通常の整形外科的ならびに神経筋疾患。
- 運動処方に影響を与えうる薬剤の作用の基礎的メカニズムを述べることができること(β-遮断薬、利尿薬、Ca拮抗薬、降圧薬、抗ヒスタミン薬、精神安定薬、アルコール、ダイエット薬、感冒薬、カフェイン、ニコチン等)。
- 環境条件(温度、湿度、二酸化炭素、標高、天候など)が運動時の生理学的応答および運動耐容能に及ぼす影響を述べ、極端な異常環境下での運動処方に必要な注意を説明できること。
- ウォーミングアップおよびクールダウンについて、とくに狭心症、虚血性心電図変化、不整脈、血圧変化に関して述べることができること。
- 心疾患患者における上腕と下肢運動の生理学的応答の違いについて述べることができること。
- 心疾患患者に対する静的運動と動的運動の適切な使用を述べることができること。
- 各種疾患患者群に対する運動強度のモニタリングの修正について述べることができること。
- 各種疾患群における運動の逆効果の可能性、それを防ぐための注意を述べることができること。
- 参加者の健康状態に応じた運動の禁忌について述べることができること。
- 臨床症例を検討し、心筋梗塞後、PTCA後、冠動脈バイパス術後の入院後、始めの6ヶ月間、ならびにその後3ヶ月間の監視型運動プログラムを計画できること。
- 運動プログラムにすなおに従わない場合について、あるいはそれを予測させる特徴を確認できること。
- 多様な規律のあるリハビリテーションプログラムにおける様々な健康関連職種の人の役割、紹介の必要性の適応と手順を認識し述べることができること。
5.救急処置・安全性
【総括目標11】
リハビリテーションの場において、運動前・中・後に生じうる危険な状態に対して適切な救急処置を行うことができなければならない。
【個別目標11】
- 心停止、低血糖、気管支痙攣、突然生じた低血圧、不整脈、失神、熱射病(脱水)に対する救急の対処法を述べることができること。
- 循環停止患者に対する心肺蘇生術(CPR)の手順を理解し、人工呼吸および心マッサージを単独で実行できること。
- 運動負荷試験や心臓リハビリテーションで用いられる救急薬を確認し、作用機序を述べることができること。