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日本心臓リハビリテーション学会・日本腎臓リハビリテーション学会 共同ステートメント(2018年7月9日)

「日本心臓リハビリテーション学会・日本腎臓リハビリテーション学会 共同ステートメント」 (2018年7月9日)

『日本心臓リハビリテーション学会・日本腎臓リハビリテーション学会からの共同ステートメント:骨格筋量低値患者または運動療法実施患者における推定糸球体濾過量(eGFR)による腎機能評価について』

日本心臓リハビリテーション学会理事長  後藤 葉一
日本腎臓リハビリテーション学会理事長  上月 正博

1.共同ステートメントの背景

従来、慢性腎臓病(CKD)患者に対する運動療法は、腎機能を悪化させるリスクがあるとの理由で推奨されないばかりか、むしろ運動制限が指導されてきた。ところが近年、社会の高齢化によりCKD合併フレイル患者やCKD合併心不全患者が急増し、これらの患者に対するリハビリテーション・運動療法の重要性が認識されつつある[1,2]。これに伴い、リハビリテーション・運動療法がCKD患者や心不全患者の腎機能に及ぼす影響に関する研究報告が増加している[3-7]。ところがこれまでの報告の多くが腎機能指標として、血清クレアチニンから計算した推算糸球体濾過量(eGFRcreat)を採用している。

この状況を鑑み、両学会は、eGFRcreatで骨格筋量低値患者や運動療法実施患者の腎機能を評価することの問題点について共同ステートメントとして注意喚起するものである。

2.血清クレアチニンによる腎機能の評価

GFRの推算式は複数存在し,日常臨床では、血清クレアチニンに基づいて算出されるeGFRcreatが頻用されている。クレアチニンは筋肉内に含まれるクレアチンが一定の割合で非酵素的に脱リン酸化されて生じ、腎糸球体を自由に通過し、ある濃度の範囲内では尿細管で大きな影響を受けずに尿中に排泄される。血清クレアチニン(Cr)をもとにして、以下の推定式にて18歳以上の日本人のGFRを推定(eGFRcreat)できる[8]。

eGFRcreat (mi/min/1.73m2)=194 x Cr-1.094 x 年齢-0.287(x 0.739 ;女性の場合)

この推算式は体表面積で1.73m2に補正したGFR値を従属変数としている。このため、この式で計算した場合には、標準化された体表面積に対するGFRが計算される。CKDの診断は、標準サイズの人の腎機能(ml/min/1.73m2)に変換したときのeGFRが60ml/min/1.73m2未満であることが診断基準になっており、eGFRは基準域との比較が容易である。

しかし、クレアチニンはアミノ酸の代謝産物であり、その生成量は筋肉量に比例するため、筋肉量(男女差、年齢差が大きい)や肉食摂取量により変動を受ける[9]。筋肉量の少ない症例(四肢欠損、長期臥床、るい痩など)では、血清クレアチニン値は低値となり、一方、eGFRは高く推算される(血清クレアチニン値が逆数となるため)。また運動療法で筋肉量が増加した場合には、腎機能が改善してもeGFRcreatでは不変あるいは低値となり、見かけ上腎機能が不変あるいは悪化したと誤って判定されることになる。より正確な腎機能評価を要する場合には、イヌリンクリアランスやクレアチニンクリアランス測定を行うことが望ましいが、24時間の蓄尿が必要であることなど煩雑である。

3.血清シスタチンによる腎機能の評価

一方、eGFRcreatと異なる腎機能指標として,2005年より保険診療算定が可能となった血清シスタチンCに基づくeGFR(eGFRcys)がある。シスタチンCは、細胞質や組織の障害を抑え、細菌・ウイルスの増殖を抑制するプロテアーゼインヒビターであり、低分子で腎糸球体を自由に通過できる物質である。シスタチンCは、筋肉量、食事、運動の影響を受けにくい。日本腎臓学会のCKD診療ガイドでは,るい痩または筋肉量の少ない患者においてシスタチンCを用いた腎機能評価が適切としている[10]。

4.骨格筋量低値患者または運動療法実施患者において推奨される腎機能の評価

したがって、長期安静臥床による骨格筋量の減少や、逆にリハビリテーション・運動療法による筋肉量の増加が想定される症例では、血清クレアチニンによるeGFRcreatのみならず、シスタチンCを用いてeGFRcysを測定することが望ましい。

ただし、シスタチンCでの腎機能評価にも限界があり、CKDステージG5(GFR<15ml/分/1.73m2)患者の腎機能評価には不向きである[11]。また、eGFRcys測定は健康保険では3ヶ月に1回しか認められていないことにも留意する必要がある。また、腎不全や腎機能障害の保険病名があるとシスタチンC測定が査定されることがあるが、査定されることが無いように要望するものである。

注)高度腎機能障害患者指導加算

平成30年度診療報酬改定では、高度腎機能障害患者に運動指導を行い、一定水準以上の成果を出している保険医療機関に対して、糖尿病透析予防指導管理料に「高度腎機能障害患者指導加算」(月1回 100点)を設けることになった[12]。

「高度腎機能障害患者指導加算」の算定要件は、eGFR(mL/分/1.73m2が45未満の糖尿病性腎症患者に対し、専任の医師が、当該患者が腎機能を維持する観点から必要と考えられる運動について、その種類、頻度、強度、時間、留意すべき点などについて指導し、また既に運動を開始している患者についてはその状況を確認し、必要に応じてさらなる指導を行う。

施設基準の条件として、運動療法の介入前と介入後3ヵ月程度のアウトカムとして、1)血清クレアチニンもしくは血清シスタチンCの不変・低下、2)尿蛋白排泄量の軽減、3)血清クレアチニン推定GFR(eGFRcreat)もしくは血清シスタチンC推定GFR (eGFRcys)の低下率の軽減を確認する、の3条件のうちいずれか1つを満たす症例が5割を超えていることが必要である[12]。

【参考文献】

[1]日本腎臓リハビリテーション学会編:腎臓リハビリテーションガイドライン.南江堂、東京、2018.

[2]上月正博編著:腎臓リハビリテーション 医歯薬出版、東京、2012.

[3]Zelle DM, Klaassen G, VanAdrichem E, Bakker SJL. Physical inactivity: a risk factor and target for intervention in renal care. Nat Rev Nephrol 2017;13: 152-168.

[4] Baria F, et al. Randomized controlled trial to evaluate the impact of aerobic exercise on visceral fat in overweight chronic kidney disease patients. Nephrol Dial Transplant. 2014; 29: 857-864.

[5] Greenwood SA, et al. Effect of exercise training on estimated GFR, vascular health, and cardiorespiratory fitness in patients with CKD: a pilot randomized controlled trial. Am J Kidney Dis.2015; 65:425-34.

[6] Chen IR, et al. Association of walking with survival and RRT among patients with CKD stages 3-5. Clin J Am Soc Nephrol 2014; 9:1183-1189.

[7] Takaya Y, et al. Impact of cardiac rehabilitation on renal function in patients with and without chronic kidney disease after acute myocardial infarction. Circulation Journal 2014;78:377-384.

[8] Matsuo S, et al: Collaborators developing the Japanese equation for estimated GFR. Revised equations for estimated GFR from serum creatinine in Japan. Am J Kidney Dis. 2009 Jun;53(6):982-92. doi: 10.1053/j.ajkd.2008.12.034. Epub 2009 Apr 1.

[9]Baxmann AC, et al: Influence of muscle mass and physical activity on serum and urinary creatinine and serum cystatin C. Clin J Am Soc Nephrol [Internet]. 2008; 3(2): 348-354. Available from: http://www.ncbi.nlm. nih.gov/pubmed/18235143

[10]日本腎臓病学会(編):CKD診療ガイド2012. 東京医学社、東京、2012.

[11] Horio M et al. Performance of serum cystatin C versus serum creatinine

as a marker of glomerular filtration rate as measured by inulin renal clearance.  Clin Exp Nephrol (2011) 15:868–876

[12]厚生労働省ホームページ 平成30年度診療報酬改定についてhttp://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411.html