一般の皆様へ  For general public

運動療法を紹介

1.運動療法を紹介

20年ぐらい前までは、心筋梗塞の人は動かさないようにするのが治療の基本でした。しかし、今では、特別の合併症がない限り、むしろ、体を動かすことを考えます。
ただし、いきなり激しい運動はおこなえませんし、どの心臓病でも運動が可能と言う・・・というわけでもありません。

ここでは心臓リハビリテーションの「運動療法」について、Q&A方式で解説します。 ※(本項目は『やさしい心臓病の自己管理~改訂版~』野原隆司監修 制作・発行 医薬ジャーナルをもとに、広報委員会にて改変いたしました)

Q01どんな心臓病の人でも運動が必要ですか?

A01

どんな心臓病の人でも運動をしてよい、というわけではありません。たとえば心不全で今、苦しんでいる人は、安静が鉄則です。

重要ポイント
勝手に激しい運動をしてはダメ。専門医があなたに最適な運動プログラムを作成します。

Q02もし、ずっと運動をしないとどうなるでしょう?

A02

風邪で3~4日寝込んだ場合をイメージするとよいでしょう。めまいがする、筋肉が萎縮するなどの影響が出ます。また、ホルモンバランス、呼吸バランスがくずれ、心拍数や血圧の乱れが生じやすくなります。

Q03なぜ、運動がよいのでしょうか?

A03

6つの大きな効果があります。

  1. 心臓への効果
  2. 運動能力への効果
  3. 筋疲労に対する効果
  4. 心臓病の原因管理の効果
  5. 内因的な効果
  6. 精神面での効果

となります。それぞれについて説明します。

  1. 心臓への効果

    運動をすると、心臓の筋肉を養う血管の血液の流れが良くなり、さらに長期的に行うことで、心臓の機能を改善する効果があると考えられています。また、不整脈のある人では、運動を1~3か月間続けると、発作の抑制効果があることもわかっています。

  2. 運動能力への効果

    運動をすると、上に述べたような心臓への効果のほか、肺の機能、末梢の血液の流れ、そして、筋肉の量にも大いに効果が認められます。これらを総合すると、運動効果は3か月間で20~30%増加するのが普通です。逆に言えば、運動をしないでいたときの心臓より、運動効果の上がった心臓では同じレベルの動作や運動をするにも、楽に働くことができるようになるということです。ですから、虚血発作も減少します。

  3. 筋疲労に対する効果

    京大グループの検討で、筋疲労が明らかに改善することがわかりました。これは運動療法を行なった患者さんの日常労作が容易に行えるようになることを示しています。

  4. 心臓病の原因管理の効果

    あなたがもし動脈硬化症が原因で心臓病(冠動脈疾患)になった場合、その原因(危険因子)として、1.糖尿病 2.高血圧 3.脂質異常症 4.肥満 5.喫煙が考えられます。運動療法は、1.~4.などの疾患を予防することで心臓病の再発を防ぎます。

  5. 内因的な効果

    交感神経が興奮すると、心拍数や血圧を上げる物質が分泌され、心臓の負担が増します。また、不整脈が発生し、『突然死』に至ることもあります。しかし、運動をすることで、交感神経に相反して働く副交感神経の活性が増し、心臓を保護する方向に働くことが証明されています。

  6. 精神面での効果

    心臓病があると、だれでも不安になります。それが高じて「うつ状態」になる人もいます。医師の指導の下に、きちんとした運動プログラムを長期間行うと、不安やうつが軽減することがあります。また、同じ病気の仲間と一緒に運動をおこなうと、この心理効果は大きくなるようです。
    現代社会はストレスの宝庫、ストレスは心臓病に重大な影響を及ぼします。運動はストレス・マネージメントとしても有用です。
    精神面での効果については「3.ストレス管理等心理学の面から」にも掲載(予定 現在工事中)ですので、参考にしてください。

Q04運動をしてはいけない人にはどんな人がいますか?

A04

次の人は運動療法の適応になりません。

  1. 急性期の心筋梗塞の患者さんや中程度以上の心不全の人
  2. コントロールされていない心臓病の患者さん
  3. 危険な不整脈が出現する人
Q05どんな運動をどれだけ行うのでしょうか?

A05

  1. あらかじめ、専門医があなたに最適な運動について、お薬をもらうときのように指示(運動処方:運動の種目、適切な強度・時間など)を出します。
  2. 医師の指示に基づいて、エルゴメーターやトレッドミルなどの運動器具を用いた運動をおこないます。
  3. 運動前と終了直後に、心拍数、心電図、血圧などをチェックします。

また、退院後の運動処方の一例を表にしましたので、参考にしてください。

注意)患者さんの体力や病状によって、運動処方は異なります

●運動処方の一例


  1. いつ行うか

    食後1時間以内を割け、夏場は朝方の涼しい時間帯を選びましょう

  2. どの程度の強さが適当か

    病院でおこなった運動負荷テストの結果を参考に、最大心拍数60~90%の範囲で最適な強度(運動の強さ)を選びましょう。

  3. どれぐらいの運動量が必要か

    ウォーキングであれば30分が目安です。歩数計をお持ちの方は、ウォーキングを含めた一日の身体活動量の目標を6000歩にすると良いでしょう。

  4. どのくらいの頻度でおこなうか

    ウォーキングであれば、週3回程度(1回につき、15~20分以上)。毎日、必ずやらなくても結構です。

  5. どんな種類の運動をするか

    まずは、ウォーキングが基本となります。
    将来、スポーツ(卓球、ミニテニス、バドミントン、サイクリング、スキーなど)を行う場合は競技性をなくした方が良いでしょう。

  6. 避けなければならない運動は

    × 歯を食いしばるような運動
    × いきみを伴う(息を止める)運動